読むロジョン / スローガン19

トンレン瞑想 ロジョン Apr 12, 2022
読むロジョン / スローガン19

Slogan 19
All dharma agrees at one point.
すべてダルマは一点で合致する。


 今回のスローガン19からスローガン22までは、ロジョンで示される7つのポイントの5つ目「心のトレーニングの評価」に入ります。六波羅蜜の「瞑想のパラミータ」に関連するスローガン群です。シャマタとヴィパッサナ、またはマインドフルネスとアウェアネスとも言いますが、これらの瞑想の実践を通して培われた力についてのスローガンが続きます。

 まず今回のスローガン19は、『すべてダルマは一点で合致する』というもの。マインドフルネスを中心としたヒナヤナのトレーニングであれ、コンパッションを中心としたマハヤナのトレーニングであれ、エゴ(自我)を克服することにあるという点で、全て一致しているということです。

 以前、この「まいにちメディテーション」でも瞑想の有神論的なアプローチと非有神論的なアプローチの違いについて書きましたが(*詳しくはこのブログ内『瞑想の方向』をご参照ください。)、このエゴを克服する方向性というのは有神論的瞑想と非有神論的瞑想である仏教瞑想では大きく異なります。

 仏教の伝統的な考え方は無我を基盤とします。すなわちエゴ(自我)は存在せず、何ら特徴を持たないことが大前提です。「自分」または「私」といった囚われが無いからこそ、人工的でない自然な優しさ、思いやりが他者に向けられると考えます。スートラ(経典)やシャストラ(お経の解説書)、さまざまな瞑想のテキストは、全て私たちのエゴを飼い慣らし、すれ減らし、断ち切るための指南書であると考えらています。

 まず、ヒナヤナにおいては、エゴを飼い慣らすところから入ります。マインドフルネスを学ぶことで、規律を身につけてルーズさをなくし、散漫な思考や感情に振り回されない力を身につけます。その力によってエゴのシステムを弱体化させていきます。

 そして、マインドフルネスの実践を徐々に広げて、単に呼吸や自分の所作だけではなく、環境全体へ意識を行き渡らせるいくことで、ヴィパッサナ(アウェアネス)を育くむと、徐々に自己中心的な意識は減り、周囲の人や生き物たちとの関係性が深まり、「私」や「私らしさ」に囚われることが少なくなっていきます。ヴィパッサナの力によってはじめて、エゴは断ち切ることができるようになります。

 シャマタとヴィパッサナの2つの力が安定し始めて、ロジョンや六波羅蜜などのマハヤナのトレーニングに入ってくると、思いやりやウパーヤと呼ばれる巧みさにも関心が向くようになっていきます。徐々に無常や空といったものに対する視点やフレーバーを感じ取り、自分の中にはしがみつくべき何の根拠もないことが気が付き始めます。継続的で段階的な瞑想と、日常の中で環境や出来事への気を配るポストメディテーションによって、エゴをどんどん弱めて、弱めたらそれを断ち切っていきます。

 エゴのすり減り具合、断ち切られ具合は、瞑想による意識や気づきがどれだけ培われか、マインドレスがどれほど克服されたかの度合いによります。あるチベットの学僧の言葉に「エゴを捨てることは、修行者を測る秤のようなものだ。」というものがあります。

 ロジョンの実践を含め、瞑想実践はいかに「エゴの強化」、「わたし」への過剰な思いをどれだけ放棄して、いかに開放的になれるかが一つのポイントなのです。エゴへの囚われがなければ、全てのトレーニングは、思いやりの心である慈悲という一つの方向に自然にまとまっていきます。
 
 毎日の練習が、自分のためにやっている場合は、ちょっと立ち止まってこのスローガンをよく熟考してみましょう!

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