DavidとLarry
May 13, 2024Dharma Moonの初のリトリートがこのGWに開催されました。リトリートが行われたMenla(https://menla.org)は、ニューヨークにあるTibet house のリトリートセンターで、ダライ・ラマも頻繁に訪れる歴史あるセンターです。今回のリトリートは、チベット語で「ルンタ」、英語ではWindhorse(風の馬)と呼ばれる、私たち生来持っている自然な活力を高めることをテーマに瞑想プラクティスを中心に進めていきました。
今回のリトリートには、デイビッドの半世紀以上にわたる瞑想仲間のラリー・マーメルステイン(Larry Mermelstein)もスペシャルゲストとして参加してくれています。デイビッドとラリーは二人で普段から『ヴィンテージ・ダルマ』というタイトルのオンラインクラスを、不定期ながらこの5年間開催し続けてくれています。
このクラスは、元々はパンデミックが始まってすぐに、デイビッドがラリーに声をかけ、私たちのような、デイビッドの元で古くから学んでいる生徒のためのインターナルな勉強会として発足しました。しかし、クラスの内容が非常に良かったため、「これはオープン化して誰でも学べるクラスにしよう!」となり、それが後にDharma Moonへと発展していきました。こうした経緯から今回のリトリートにもラリーも一緒に参加も自然な流れでした。
リトリートに限らず、普段から彼ら2人で行うクラスはとても人気が高く、北米、南米、ヨーロッパ、そして日本から時差を超えてたくさんの生徒が学んでくれています。その人気の理由は、彼ら二人の瞑想に対するアプローチの違いから生まれる立体的で奥行きのあるダルマトークの面白さにあります。
デイビッドもラリーも、1970年代初頭にチョギャム・トゥルンパ・リンポチェがアメリカに渡って瞑想を伝えはじめた時からの生徒でした。20代の時からダートゥンと呼ばれる、数ヶ月にも及ぶ瞑想の集中合宿にも参加した仲で、いわば同じ釜の飯を食った仲です。私たちの感覚で言えば学生時代に同じ部活で過ごした仲間のような感覚でしょう。こうした仲間には、ペマ・チョドロンや、トゥンパ・リンポチェの本の編集に尽力したジュデイ・リーフやキャロリン・ギミアン、日本でも本が出ているマイケル・キャロルなど、欧米では有名な瞑想教師や執筆家たちが数多くいます。
デイビッドは、瞑想の実践がある程度身についた後、トゥルンパ・リンポチェからの要請もあり、ヴァーモント州カルメ・チョリン・メディテーションセンターのディレクター、LAのダルマダートゥメディテーションセンターのディレクターなど、メディテーションセンターを立ち上げて、瞑想に興味を持った人たちを一人前の瞑想家、瞑想指導者するための仕事に従事しました。トゥルンパ・リンポチェの他界後も、NYのOMヨガセンターのブディズム研究ディレクターや、全米の著名なヨガスタジオや瞑想スタジオ各所でマインドフルネス瞑想指導者養成に従事してきました。
このようにデイビッドは、瞑想をより広く多くの人に触れてもらい、そして初心者が安定して瞑想が練習できるようになるまでの道筋をしっかりとつけることにエネルギーを注ぎ続けています。彼は瞑想の間口を広げる役割を50年続けている瞑想教師と言えるでしょう。
一方、ラリーは、トゥルンパ・リンポチェと共にチベット語の経典、テキスト、講演集などを英語に翻訳し、本の編集出版を担うナーランダ翻訳委員会を創設し、その委員会の座長を半世紀に渡って務めてきました。同時に瞑想の書籍の専門出版社であるシャンバラ・パブリケーションズのコンサルティング・エディターとしても長い経験を持ちます。21世紀の現在、トゥルンパ・リンポチェがアメリカに伝えたチベット仏教の伝統的な教えを英語で学べるのは、ラリーの多大努力と貢献のおかげといえます。
彼は現在、トゥルンパ・リンポチェの過去のティーチングのアーカイブを整理し編纂して、誰もが学べるようにしたThe Chronicles of the Chogam Trungpa RInpoche や、そこで学べることを実践的にプラクティスするための、オンラインプラクティスコミュニティのOceanの運営も行なっています。
また、彼自身長年チベットのラマの資格を持ち、世界各地の大学や教育機関でチベット仏教の講義やサンスクリット語の指導を精力的に行ってきました。こうした経緯から、彼は瞑想がある程度進んだ人たちが、より深く理論や実践を学ぶために必要なことを提供してきました。アメリカにおけるチベット仏教の歴史やチョギャム・トゥルンパ研究の生き字引と言える存在です。
そうした彼ら2人がクラスで同じテーマを話すと、それぞれ強調するポイントが異なるため、瞑想初心者から経験者まで、誰もが何かしらのヒントを得ることができます。非常に奥行きと広さがある立体的な話が展開されるのです。デイビッドはよく、「私がジャズプレーヤーなら、ラリーはクラッシックの演奏家だ」と言いますが、まさにそうした感じです。デイビッドは、ダルマを水平方向にコンテンポラリーに伝え、ラリーは同じことを垂直方向に、トラディショナルに伝えていきます。
そして、面白いことに彼らの話をよく聞いていると、表現が違っても話の要点が同じであること気がつきます。ロジョンのスローガンにも”All dharma agrees at one point”(すべてのダルマは一点で合致する)というのがありますが、彼らの話は表と裏、縦と横で、ある1点を差し示してくれているのです。彼らのクラスは、瞑想を学び・伝えるアプローチは、決して一つではないのだということを深く感じさせてくれます。
さらに彼ら2人と一緒に過ごしてみると、彼らの立ち振る舞い、温厚な雰囲気が共通していることがよくわかります。こうした雰囲気は、彼ら2人に限らず前述の先生方も共通しています。彼らは総じて、柔和で知的で、ユーモアがあるのです。私は渡米して彼らに会うたびに、これこそがトゥルンパ・リンポチェのレガシーはこれなのだろうと強く感じます。生きた伝統とはこうしたことなのではないかとも思います。
これからデイビッドもラリーも来日する機会も徐々に増えると思います、タイミングがあればぜひ実際にこの2人の掛け合いに触れてみてください。ただ瞑想の理論を学べる以上に伝わる何かがあるはずです。人生に対する何かしらのヒントが見つけられるかもしれませんよ!