読むロジョン / ロジョンとは?
Apr 12, 2022
True Nature Meditationのスタジオでは、心の訓練法としてロジョン(Lojong)のクラスを開催しています。クラスは週に1回開催され、59あるテーマ(スローガン)を1つずつ解説しています。すでに昨年(2020年)の夏からこのクラスを始め、59週間をかけて、全てのスローガン解説を一旦終えたのですが、この10月からまた新たに最初のスローガン1に戻って解説を始めてます。せっかくいいタイミングになったので、今後はこの『まいにちメディテーション』でもロジョンの紹介していこうと考えています。
今後はスローガンを1つずつ紹介していこうと思いますが、その前にそもそもロジョンとは何かについてご紹介しようと思います。ちょっと長い説明になりますので、お付き合いください。
この『まいにちメディテーション』でもたびたびご紹介していますが、メディテーショ ン(瞑想)を学び、そして実践することを「自分に馴染む」とか「自分に親しくなる」と 言います。自分と「親しく」なるためには、毎日のメディテーション練習はもちろん必要不可欠で すが、瞑想以外の時間、すなわち日常の中で自分の振る舞いや言葉使い、そして感情の動 きを見つめる癖をつける練習もとても重要になります。
日常の中で意識を配るとなると何やら漠然としていて、どうトレーニングをするべきか がわからなくなりがちですが、チベットの伝統にはそうした日常の『実践ガイドライン』 があります。それがLojong(ロジョン)と言われるものです。
チベット語では“Lo”とは心(Mind)、 “Jong”は訓練(Training)のことを指し、 Lojongは直訳すると心の訓練(Mind Training)という意味になります。
ロジョンは、59のスローガンからなり、そのひとつひとつのスローガンを考え、それを生活の中で忘れないことで、自身の心の癖を修正して、思いやりと優しさを持った心を徐々に培うことができる伝統的なトレーニングです。
そもそもこのロジョンは、インドの仏教指導者アティーシャ(Atisha)に起因します。 彼がダルマキルティ(Dharmakirti)から学んだ教えを再構築し、1054年に亡くなる前に、 チベット仏教カダム派の創始者であるドロムントンパ(Dromtönpa)に伝えたことで、 チベットの伝統的なトレーニングとして始まりました。
その後しばらくの間はロジョンのスローガンは公にされず、一部の弟子だけに口伝で受 け継がれていきましたが、ラン・リー・タンパ(Lang-ri Thangpa)によって書き留めら れ、その後ゲシェ・チェカワ・イシェ・ドルジェ(Geshe Chekawa Yeshe Dorje)が『心 を鍛える7つの要点の根本テキスト』(The Root Text of the Seven Points of Training the Mind)にまとめたことでより広く知られるようになりました。
もともとカダム派のトレーニングとして受け継がれていましたが、先日このブログで紹介したカギュ派のガンポパ(Gampopa)がミラレーパ(Milarepa)に師事する前、カダム派 の指導者に学んだため、カギュ派にも取り入れられ、以来代々受け継がれていきました。
ロジョンの実践には、2つの側面があります。メディテーション実践とポストメディ テーションの実施です。ポスト・メディテーションとは練習が終わった後の1日の過ごし方と考えて頂ければ分かりやすいと思います。要するに、実際にメディテーション瞑想する、そしてそれに加えて日常の出来事に意識を向けることで心を訓練していきます。
また、ロジョンを実践する際のメディテーションは、トンレン(Tonglen)という特別な瞑想法を使います。このメディテーションは英語で『Sending – Taking meditation』と書き、 文字通り『送り出して(sending)-引き受ける(taking)』ことをしていきます。呼吸を使いながら、周りの人々や世界のネガティブなものを吸い込み、そして自分の感じている温かさ、優しさといったポジティブなものを吐く息とともに送り出していきます。坐る瞑想としても行いますし、生活の中でこの呼吸を使うこともあります。
このトンレンは、メディテーション初心者の方にとってちょっと難しい瞑想です。このメディテーションは、ある種のイメージを使う以上、イメージの主体である思考や、そ こから派生する感情といったものを軽やかに扱う力が必要だからです。本来思考や感情に実体はありませんが、基礎的な瞑想を身につけておかないと、我々はそのようには受け取れません。思考や感情が重く大きく自分にのしかかるような気になってしまいます。
その為、まずはトンレンの準備として、マインドフルネス・メディテーションによって心を軽やかに扱う力が必要になります。さらにマインドフルネスから発展して、心の動きをしっかり観る力を養うアウェアネス・メディテーション(ヴィパッサナー瞑想)の継続的な実践も必要になります。
また、マインドフルネスはトンレンを行う為だけではなく、ロジョンのスローガンを 「素直」に解釈して、考え、受け止めるためにも必要です。自分の決め付け、すなわち自 身の概念的解釈や、道徳的解釈を無意識に適応させてしまうとスローガンの本当の意味が理解できません。
自分の思考のパターンや、感情の動きを自分でモニタリングするマインドルネスとアウェアネスを両方がしっかりと稼働していることも大切になります。 ある意味では、日頃実践しているメディテーションを総動員して向きあうことが必要なトレーニングと言えるかもしれません。
スローガンは様々なものがあります。例えばいくつかご紹介すると、、、
「すべての現象を夢と見なさい」(Slogan 2)
「散漫でも(瞑想)練習できるようになれば、十分に鍛えられいる。」(Slogan 22)
「称賛を期待するな」(Slogan 59)
「毒のある食べ物を放棄する」(Slogan 29)
などなどさまざまなものがあります。
「称賛を期待するな」のようにパッと理解できるものありますが、「すべての現象を夢と見なさい」と言われてもピン来ないですね。それぞれのスローガンには、それを考えるヒントとなるコメンタリー(解説)がついているので、それも学び、日常の中で心の留めていきます。
例えば、「毒のある食べものを放棄する」と言ったスローガンは、ダイエットやファスティングを勧めているスローガンではありません。メディテーションとはエゴを減らしていくトレーニングであるにも関わらず、自分の心の癖に乗ったまま自己改造を行う方向に心を訓練していくことはエゴの強化に繋がり、まさに毒物を食べるようなものと考えらるため、そうした毒物 (エゴの動き)を放棄しなさいという意味です。このようにコメンタリーがないと意味がわからないものあるので、コメンタリーを学びつつ、このスローガンを覚えていくことが重要になります。
スローガンを実践していくと、私たちの習慣的な傾向は、たとえちょっとした仕草で あっても、自己中心的なものであることに気付きます。そして残念ながらその傾向は非常に強固な我々の心の動きとして定着していて、私たちの行動や言動に大きな影響を与えていることも自分で気がつけるようになっていきます。
だからこそ、自分よりも先に他者を想うトンレンの実践を併用していくことになるわけです。トンレンはこうした習慣的な心の傾向を逆転させていく非常に大きな手助けになってくれます。
スローガンを読むだけと言うと、単に日めくりカレンダーを目にしているだけのようで、簡単そうに思われるかもしれませんが、実際にやり始めると、面白い程ほぼできません。
仕事に真剣に向き合っている時でも、家族と休日をのんびり過ごしている時でも、あらゆる日常の一コマで自分の言動や行動に自己中心的な心の動きを感じとるたびに、スローガンが頭をよぎります。その都度、「またやっちゃった。」、「相変わらず心が頑でダメだ。。」など凹みます。でもそれで良いのです。
ロジョンでは、そうした落胆や、怒りや、不安などが、どう心を染めているか?そしてその心がどうなっていくのか?その心がどこから来たのか?などに向き合っていくことがトレーニングなのです。
私の先生であるDavidは、ロジョンは『自分の至らなさを知り続ける道』と言ったりします。まさに、チクチクと心を突かれるようなトレーニングですが、そもそもなぜチクチクするのかといえば、自分が慣れ親しんだ心の動きに反する何かがあるからです。これこそが我々の心の動きを気付かせてくれるアラームと言えるかもしれませんね。
#マインドフルネス#ロジョン#マインドフルネス瞑想#メディテーション#瞑想